ふと気になる事があって、わたしのベッドの上で丸まっている物体に声をかけた。 「なんだ?」 目を閉じていた詠が僅かに顔をあげてこちらを向いた。今はわたしの部屋にいるから仔犬の姿だ。 「詠っていつから犬の姿とるようになったんだっけ?」 「何度言っても分からないようだがもう一度言っとく。狼だ」 尻尾をぴんと張って主張する。普段の人間体とは逆に、可愛らしい姿に口元が緩みかけたけれど、耐えた。一度大笑いして彼のご機嫌を損ねた時は大変だったし。 「はいはい。で、いつからだっけ?」 「んー。……十七年前、か?」 「そんなに?」 覚えてない。 「犬以外には変化できないの?」 「おーおーかーみーだーっ。可能だが……見たいのか?」 「見たい」 即答した途端に詠の姿が揺らいだ。銀色の毛なみから真っ白になり、耳は少し尖っていたのが長く伸びた。 あっという間にウサギの完成。 「おお。凄い。こっちの方が月の化身って感じでいいんじゃない?」 ウサギの耳に触れると、嫌なのか身をよじって逃げた。 「そうやって子供のお前が引っ張るから止めたんだ!」 「じゃあ、昔は色々な姿だったんだ。覚えてないなぁ……」 思い出そうとしたが無理だった。物心ついた時にはすでに犬だった気がする。 ウサギはわたしが考え事をしている間に元の仔犬の姿に戻ってしまった。もったいない。 「他には?」 興味を持って聞いてみると、心底嫌そうな顔をしたけれど教えてくれた。 鳥になった時は境内に住みついてる野良猫に追いかけられる。 猫はお前が尻尾引っ張る。 動物図鑑≠持ってきたお前の兄貴がうるさいから、羊とライオンに化けたら霊力ある者に見られて騒ぎになりかけたからやめた。 蛇はお前の母親が嫌がった。 じゃあ仕方がないと姿を消していたらお前が泣き喚いた。 「で、無難な狼に落ち着いた」 狼と主張するなら成体の姿をとればいいのに、そうしないのは嫌がられた≠ゥらだろうか。 母のような一般人には、妖などの人外を視るのは難しい。子供が何もない空間に反応していたら不気味である。だから能力者以外にも視えるようにしていたと、詠が言った。大型生物が子供の近くにいるのも、正体は分かっていても心配だったのだろう。 何度か見た事がある狼の成体は、流麗で凛々しかった。その姿が好きだといったら調子に乗りそうなので黙っているけれど。 この姿はずっと一緒だったから愛着がある。耳の後ろ辺りを撫でると、尻尾がニ、三回振れた。仔犬の目が気持ちよさそうに閉じられる。 その様子に、今度はこらえきれずに笑ってしまった。 |