たいじや -天青の夢- 一章 2.いつもの風景
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 丼に炊き立てのご飯をよそい、上に鶏そぼろと炒り卵をのせる。あとはワカメのお味噌汁。本日の昼食である。
 二人分の丼とお椀を持って彩華が居間へ向かう。そこでは、いそいそと詠がお茶を淹れていた。
 詠こと月詠尊は食事など必要ないのだけれど、この神様は人間の食べ物を好み、三食きっちり食べる。時にはおやつも食べる。
 そりゃあもう、見ている人間が満腹になるくらい美味しそうに。
 食いしん坊だからといってがっついて食べる事もなく、流石というか、良家の生まれと言ってもよい箸使いだ。
 食事する時間が無駄じゃないのか、と疑問に思った彩華は彼に尋ねた。
 返ってきた答えは「人間でいう趣味のようなもの」だった。確かに読書や映画鑑賞など、興味のない者にとって、それに割く時間は無駄に感じるだろう。
 ついでに何が一番好きなのかも聞いてみたところ、即答でおにぎり≠ナあった。しかも具なしの塩むすび。
 天照大御神の好物はアワビだというから、神様というのは美食家なのかと思っていたけれど、違うらしい。
 しかしこの神様は高級品≠ニ呼ばれる食物も好んでいるから、彩華をはじめ、高村家の人間は非常に困る時もある。
 さすが農耕神、といったところなのかは、彩華にも分からない。
 さて。今日は忙しくないとはいえ、あまりゆっくりもしていられない。彩華も食べようと箸を持ち、ふとテレビに目をやる。

『ブルーダイヤ 初公開』

 持ち主を必ず不幸にする、と噂のある(いわ)くつきの宝石が、日本で公開されるとの報道だ。
 この手の呪われた○○≠ニいうのは、宝石に限らず数多くある。
 月詠神社へも月に一、二回持ち込まれる。よくあるのは、髪の伸びる人形や物の怪つきの骨董品だ。
 調伏の依頼人は、曰くつきと分かっていながら購入しているようだが、その日のうちに霊的障害にあい、結局耐えられずに泣きついてくるのだ。
 力のある者は妖を退けるが、大抵の人間は力など持たない。
 分かってはいるが、私欲の為に金を積んだ者が霊障にあっても知ったこっちゃない、と彩華は常日頃思っている。自業自得と突っぱねたくなる時もある。もちろん外法師(こちら)も慈善事業ではないから、おあいこなのだろうが。
「…………。彩華。食べないのなら貰うぞ?」
 箸が止まった彩華を見て、詠が尋ねてくる。すでに自分の分は食べ終わっている。
 食いしん坊め。
「ちょっと考え事してただけ。――お代わりあるけど、食べる?」
「食べる」
 こっくりと頷き渡された丼を持って、彩華は台所へと足を運んだ。

 
「ごちそうさまでした」
 お行儀よく手をあわせる。
 気持ちのよい食べっぷりに敬意を表し、一杯目よりも心持ち多めによそった。作り手として綺麗に残さず食べてもらえるのは、やはり嬉しい。
 ……食費は若干かかるけれど。
「神社が破産したら洒落にならないけどね……」
「それなりの働きはしてるぞ」
 呟きが気に障ったのか、半眼で詠が睨みつけた。
 ――が、いつもこうなので彩華は無視している。



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